社会保険料の随時改定の仕組み。残業代の85%を取られた話の、その後

6月頃に「知らないと損する税金の仕組み。僕が残業代の85%を税金で取られた話し」という記事を書きました。3月から5月に働き過ぎた結果、社会保険料や所得税が値上がりし、結局3月から5月に働いた分の残業代の85%が社会保険料や所得税として持っていかれるという話し…

この時はまだ、計算上の予測値を含めて記事を書いていました。その後8ヶ月程度経過し、実際にどうなったのかを書きます。

支払う事になった社会保険料と所得税

結論から言うと、3月から5月に働いて支給された残業代以上の金額を所得税と社会保険料で支払う羽目になりました。

社会保険料が月あたり12,286円アップ

まず、組合が勝ち取ったベースアップにより、2017年4月の給与から基本給が1,350円アップしました。これをトリガーに社会保険料の随時改定の判定が入り、そのタイミングで残業代が増えていたために、随時改定の対象となってしまいました。

随時改定によって、2017年4月から6月(一番残業代が多かった時期)に支給された給与を基に社会保険料の標準報酬月額が変更になりました。

標準報酬月額は社会保険料を決める元となる数字で、数万円程度の間隔で等級分けがされていて、等級が高くなるほど社会保険料が高くなります。3ヶ月間の給与の平均値を計算し、平均値がどの標準報酬月額の範囲に当てはまるかで等級が決まります。自分の場合は残業代の影響で支給額が増えたため3等級もランクアップし、2017年8月支給の給与から反映されました。

この結果、ひと月の健康保険料と厚生年金保険料の自己負担額が12,286円もアップしてしまいました。

2018年2月現在、給料はとっくに残業代が増える前の水準に戻っていますが、社会保険料は変わらず12,286円アップした後の金額を払い続けています。現在の給料からすると3等級も高い水準の社会保険料を払っていることになります。

そして、社会保険料は残業代が減っても基本給が減らない限り減額の方向に随時改定がされないため、2018年9月支給の給与から反映される定期決定を待たなくてはいけません。(随時改定と定期決定については後ろの章で説明します)

この間、社会保険料の等級がアップした事で余分に支払うことになった金額が

12,286円 × 13ヶ月 = 159,718円となります。

賞与に対する所得税は73,735円アップ

これは元の記事を書いたタイミングでも分かっていた事ですが、6月に支払われる賞与にかかる所得税は前月の5月の給与で決まるため、残業代で増えた支給額の影響を受けて通常よりも73,735円も多く所得税を支払うことになりました。

合計で27,427円の赤字

2017年4月〜6月に増えた残業代によってアップした社会保険料と所得税の合計は、233,453円
一方、2017年4月〜6月に増えた残業代は206,026円

よって、3月から5月に働いた分の残業代が全て社会保険料と所得税で無くなるどころか、更に27,427円も支払う羽目になりました。当初は残業代206,026円の85%程度が社会保険料と所得税に消える予想をしていましたが、現実はそれ以上だったということです。

2017年6月以降も多少の残業はありましたが、徐々に仕事が落ち着いたため、2017年10月支給の給与からは、ぼほ残業が増える前の水準に戻りました。6月以降に支給された残業代を加算しても、8割程度は社会保険料と所得税で徴収されています。

社会保険料の改定の仕組み。定期決定と随時改定

残業代以上に社会保険料と所得税を取られてしまった大きな要因は、社会保険料の改定です。ここで社会保険料が改定される仕組みについて説明します。

まず、社会保険料の改定には定期決定と随時改定があります。

定期決定は毎年4月から6月に支給された給与の平均値を基に同年9月から翌年8月までの社会保険料が決定します。同じタイミングに随時改定が行われない限り、給与を支給されている全員が対象になります。

1年間、特に4月から翌年3月までの給与が一定の場合、定期決定だけで年収に相応しい社会保険料を徴収できます。しかし月ごとに給与が変動する場合は問題があります。

例えば昇級のタイミングで7月から給与が増える人の場合、年収の割りに少ない社会保険料を徴収する事になります。反対に4月から6月の給与が他の月よりも多い場合、年収の割りに社会保険料を多く徴収する事になります。

これを是正する仕組みが随時改定です。

随時改定は、一定の基準を満たした場合に定期決定を待たずに社会保険料を見直す制度です。随時改定が行われる3つの条件を日本年金機構のホームページより引用します。

(1)昇給又は降給等により固定的賃金に変動があった。
(2)変動月からの3か月間に支給された報酬(残業手当等の非固定的賃金を含む)の平均月額に該当する標準報酬月額とこれまでの標準報酬月額との間に2等級以上の差が生じた。
(3)3か月とも支払基礎日数が17日(特定適用事業所に勤務する短時間労働者は11日)以上である。

一見、随時改定は良心的な制度に見えるかもしれませんが、実際のところそうとも言えません。厄介な点があります。

一つ目の理由は、
残業代が大幅に増えても減っても、固定給が変わらなければ随時改定が行われない事です。

(1)の”固定的賃金に変動があった”とありますが、いわゆる基本給の変動の事を示します。残業代や各種手当は固定的賃金としては扱われません。
仮に3月〜5月頃の繁忙期で残業代が大幅に増え、4月から6月の給与で算定する定期決定で高額な社会保険料になったとします。そして、6月からは残業が無くて大幅に給与が減ったとします。この場合、基本給が変わらなければ随時改定は行われず、翌年の定期決定まで高額になった社会保険料を支払い続ける必要があります。

残業代や手当は社会保険料の計算には使われますが、見直しのきっかけにはならないのです。

上の例と反対に、7月以降の繁忙期で大幅に残業代が増えた場合も基本給に変動が無ければ随時改定は行われません。社会保険料を出来るだけ払いたくない人は、4月から6月に支給される残業代が他の月より多くならないように努力をすべきです。例えば3月に着手予定の仕事を2月のうちに済ませておくとか、6月に着手予定の仕事を7月に回すなど…

随時改定が厄介な二つ目の理由は、
社会保険料を減額する場合の見直しは基本給の減少が条件、増額する場合の見直しは基本給の増加が条件という、(1)の補足ルールです。

このルールに従うと、
昇給のタイミングと繁忙期が重なり、基本給と残業代、手当が増えた場合は随時改定の対象になります。給与が増えているので社会保険料は当然増額になります。
しかし、社会保険料が算出された時より残業代や手当の減少で大幅に給与が減っても、昇級のタイミングで基本給が1円でも増額していたら随時改定の対象にはなりません。この場合は定期決定まで待たなくてはいけません。

同じ企業で真面目に働き続ける場合、基本給の減少というのは必ずしも多くないと思います(年功序列が普通だった頃は特に…)。そうすると、随時改定は社会保険料を増やす方向にバイアスが掛かっている厄介な制度と言えます。

これなら、そもそも社会保険料を算出する時に残業代や手当を含めないで欲しいですよね!

まとめ

自分の場合、随時改定が厄介な二つの理由に完全にハマってしまい、2017年10月から2018年8月にかけて給与水準より12,286円も高額な社会保険料を払う事になってしまいました。

会社員の場合、自分で残業代や手当のコントロールをするのは難しいと思います。しかし、相次いて所得税や社会保険料の値上げが検討されている昨今、自分の金融資産を守るという観点で考えると、制度について学習し、上手く立ち振る舞うスキルを身に付ける事が重要です。

出典:随時改定|日本年金機構

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